社会福祉法人けやきの郷は、知的障害のある自閉症の子どもをもつ親21名が発起人となって、1985年に設立した自閉症スペクトラム障害を中心とする発達障害者(成人)のための専門施設です。全国では2番目、東日本でははじめての施設です。
制度を先取りした先駆的な施設としてー「人間としての尊厳をもって、豊かに幸せに責任をもって生きる」
けやきの郷の特徴を一言でいえば、以上の理念に基づいて、「先駆的に走ってきた施設」(一般社団法人日本自閉症協会前会長 山崎晃資先生)といえると思っております。
37年前、入所施設としては、多分、日本ではじめて、利用者が全員、職員の運転するワゴン車で地域に働く場所を見つけて仕事に出ていきました。市の公民館、市場のお掃除、空き缶選別工場、清涼飲料水会社での荷物の積み出し、電車模型の組み立て、パレットの製作工場などで仕事をしていきました。
「集団自立―障害の程度に関わらず、支え合って自立していこう」
仕事の場で覚えたスキル・技術で自立していこうーこうして生まれたのが、働く場としての「やまびこ製作所」と、生活する場としての「潮療」です。「初雁の家」を設立して5年目、まだ、グループホームが制度化されていない中、まさに、「先駆的なけやき」でした。この中で生まれたのが、「集団自立」の考えです。「障害の程度に関わらず、共に支え合っていこう。足りないところは職員が補えばいい」―最初にグループホームに出た利用者は、中軽度2名、重度6名、最重度2名というメンバー。いま、「やまびこ製作所」で、彼らの特徴を生かして、中心となって木製パレットを精緻に正確に作っているのが彼らです。以来、利用者のニーズに沿って、働く場、生活する場、相談支援の場等を作ってきました。
けやきの郷を数回訪れ、北京にも、けやきの郷と同じような成人施設をと運動している北京自閉症児リハビリテーション協会副会長の朱春燕さんは、「集団自立は、共生社会そのもの」と言いましたが、私たちのあり方は、海を越え、さまざまな国・人ともつながり、放送人・看護師さんの研修の場ともなり、「障害」の垣根を超えてつながっています。
2度の水害にあい、新たな出発―地域の自閉症・発達障害の人たちの総合支援センターとして
37年の間に、けやきの郷は、2度の水害にあいました。1999年と2019年です。特に、2019年10月の台風19号では、16施設のうち15施設が水没し、復旧までに半年を要する被害を蒙りました。この時、地域の方々、地域の施設、全国の仲間の施設に、どれだけたすけられたか、感謝してもしきれません。また、これからのことを考えたとき、親亡き後・利用者の高齢化等、さまざまな問題が、次々と起きてくるでしょう。総合支援センターとしての機能の充実は必須です。そのときこそ、われわれの理念の真価が問われる時と思います。「豊かにとは?責任をもって生きるとは?働くとは・・・」答えは、一つ。「生きがいを保障するための集団自立―障害の程度に関わらず、助け合って。足りないところは職員が補って・・・」そして、地域の人たち、社会資源とも連携して・・・。
更なる努力と職員の寄り添う心と専門性と多くの人たちとの連帯の中で、利用者のみならず、支援する人にも、どんな生きがいをつくっていくか・・・、それは、もしかしたら、日本の社会を変える鍵・核となるかもしれない・・・そう願い、これからも歩んでいきます。